コラム Column

「こうやって代表選手は変わるんだ……」浅野拓磨が代表で感じた、ある変化。

文:安藤隆人
Takahito Ando

「これまでとスタジアムの雰囲気が全く違うんです」

10月10日に開催されたキリンチャレンジカップ第2戦の日本vs.ハイチ戦後、浅野拓磨はミックスゾーンで自分の中に起こった「ある変化」について語っていた。

「ようやく日本代表選手として認められたと言うか、自分に対する周りの目がより厳しくなってきた。改めて、いつまでも『新米』じゃいけないと痛感しました」

潮目が変わったのが、8月31日のロシアワールドカップアジア最終予選のホーム・オーストラリア戦だった。

勝てばW杯出場が決まるこの重要な一戦で右サイドハーフとして先発出場をした浅野は、41分に日本をW杯に導く値千金の決勝弾を叩き込んだ。

一夜にしてヒーローとなった彼は、この瞬間に日本代表における「新参者」ではなくなったようだ。ロシアW杯に向けて、“世界水準モード”に切り替えていこうとするハリルジャパンにおいて、浅野は「世界を相手に点を獲ってもらわないと困る存在」へと一段階段を上ったのだ。

それを肌で感じたのが、アジア最終予選が終了し、世界に向けてのリスタートとなったキリンチャレンジカップの2試合だった。

ピッチ上で感じた、観客席のある変化。

第1戦のニュージーランド戦は78分に交代出場し、ハイチ戦ではスタメン出場をするも、前半のみの出場。2試合を通じてゴールを決められず、期待通りの活躍とは言えぬまま終わった。

「プレーしていて、『俺は若くて、スピードが自慢で、1つ良いプレーをしたら騒がれる……という時期はもう終わったんだな』と感じました。周りからの要求も変わってきたし、自分のプレーで観客が沸くというより、自分がまずいプレーをするとため息やブーイングに変わる」

浅野は自身に対する観客席の変化を、ピッチ上で敏感に感じとっていた。

だが、同時にそれは歓迎すべきことであることも理解していた。

「『良くやったな』と言われなくなってくる」

「この変化は自分が成長している証なんだとポジティブに捉えています。日本代表において、僕は次のステップに差し掛かっていると思っています。

それは周りのチームメイトもそうで、要求もより厳しくなってくるし、ちょっとやそっとじゃ『良くやったな』と言われなくなってくる。この変化は間違いなく自分のレベルが上がってきている証拠なので、ネガティブに考えること無く、ポジティブにやっていきたいと思う」

その観点からすると、この直近2戦の出来は完全にブーイングされるべきものだった。そのことを本人に伝えると、まっすぐにこっちを見てこう返してきた。

「間違いなくそうです。僕に求められる一番はゴールで、それが最低限果たさないといけないこと。それが出来ない時点でダメなんです。

それにもっともっとピッチで周りに要求していかないといけないと思っていますし、逆に周りからの要求に対して『ちょっとまだ出来ません』と言っていられる暇も無い。

それなのに今日は何も出来なかった。個人として何も褒められることも無い試合だった」

本田、香川、岡崎は「この中で結果を出し続けてきた」。

自分へ厳しい評価を下す一方で、自分の心中に生まれた、ある気づきを教えてくれた。

「凄く思ったことがあるんですが……この厳しい目やプレッシャーの中で、ずっと戦い続けていることはとてつもなく凄いことだな、と。本田さんや香川さん、岡崎さんはずっとこの中で結果を出し続けてきた。

今の僕なんかよりももっと厳しい目にさらされている中でも、決してネガティブになること無く、どんなときもポジティブに考えながら代表でプレーをしている。『みんなこういう経験を重ねて変わっていくんだなぁ』と実感している最中なんです(笑)」

いつかは若手の台頭で追い落とされる時が来る。

デビュー当初は“次世代を担う”や“新星”という様々なキャッチフレーズが付けられ、ちょっと活躍しただけでもてはやされる。そこでゴールを決めようものならお祭り騒ぎだ。

だが、キャリアを重ねるにつれ、そうした新鮮味はなくなり、やれて当たり前の存在になる。

さらにキャリアを重ねると、今度はかつての自分のように勢いを持った若手が台頭してきて、彼らが活躍すると世論は一気に期待の言葉を並べて騒ぎ立てる。

その一方で逆に自分が活躍できなかったらすぐに「◯◯は素晴らしかったが、◯◯はダメだった」と非難の対象となり、やがて不要論まで巻き起こってしまう。

そう……それは浅野らが台頭してきたことで、本田圭佑や香川真司、岡崎慎司などがまさに今直面している状況なのだ。

オーストラリア戦の浅野と井手口陽介のゴールは、それをより加速させたと言っていい事象だった。

本田も香川も岡崎も、決してブレなかった!

いつかは浅野自身も本田や香川、岡崎の立場を味わうかもしれない。だが、裏を返せばそれは日本代表の中心として長く戦い続けてきた者にしか味わえない立場でもあるのだ。

「今までは本当にそんなことまで考えたことも無かった。でも、オーストラリア戦をきっかけに『あ、こうやって代表選手は変わっていくんだ』と思ったし、同時に『悪いプレーをしてブーイングされることはそんなに悪いことじゃないんだ』と思うようになった。

前のようにワンプレーで騒がれなくなったのは、決して悪いことじゃないんだと。先輩達を見て思うのは、メンタル面で絶対にブレていないということ。周りの目が厳しくなる中で、『じゃあ自分には何が出来るか、何が必要か』と当然考えますが、やっぱり急に上手くはならない。

だからこそ、ダメだったときに『ああ、俺はやっぱり全然ダメなんだ』と沈まないことが物凄く重要なんです。どんな批判、指摘に対してもどっしりと構えて、周りに何を言われようが、『言われること自体が光栄だ』と感じないとやっていけないと思う。今、僕はそのメンタリティーを鍛えている最中でもあります」

浅野は欧州遠征で定位置を確保できるか?

11月5日から始まるヨーロッパ遠征メンバーに浅野は名を連ねた。

ここに本田、香川、岡崎の3人の名前は無い。

だからこそ、浅野は活躍しなければならない選手として、より厳しい目にさらされることになる。

ブラジル、ベルギーの強国を相手に、自らの力で選ばれ続ける理由とロシアW杯に自分が必要な存在であることを示すことが、果たしてできるか否か……。

「代表での『確立された立ち位置』はまだない。自覚と責任をもっと強く持って臨まないといけない」

試金石となるヨーロッパ遠征で、果たして浅野は、自分というものをブレることなく表現し続けられるだろうか。

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