コラム Column

バスケ日本男子、歴代最高の成績。U-19W杯で世界を驚かせた戦法とは。

文:宮地陽子
Yoko Miyaji

「ミラクルを起こそう。世界を驚かせよう」

FIBA U19ワールドカップに出場した男子U19日本代表のヘッドコーチ、トーステン・ロイブルは、大会前からチームにそう発破をかけてきた。

これまで日本の男子代表は、どの年代のチームでも世界トップクラスと互角に戦えたことがない。世界大会に出ることが快挙で、実際に世界レベルを相手にすると勝つどころか、接戦に持ち込むことすらできないという現実を見せつけられてきた。世界を相手に大差をつけられて負け、次に向けてのいい経験ができたと言いながら、継続して世界大会に出ることもできなかった。

そんな現実が、プレーする側にとっても見る側にとっても、当たり前になってきていた。ロイブル・コーチは、そういった既成概念を変えようと、今大会に向けての準備を進めてきたのだった。

元からのケミストリーと八村、榎本のクオリティー。

去年、FIBAアジア U18バスケットボール選手権で準優勝し、U19ワールドカップの出場権を獲得した日本代表にはゴンザガ大に留学した八村塁がいなかった。パンチ力こそ欠いていたが、チーム一丸となって戦うことに長けたチームだった。

それだけに、当初はロイブル・コーチもメンバー入れ替えに慎重だった。一方で、世界と戦うには八村の存在は必要だった。故障者が出たこともあり、八村と、さらに日本代表経験が一度もなく、アメリカの短大でプレーしていた榎本新作(アメリカ名:アイザイア・マーフィー)を加えた。

2人とも大学のスケジュールの関係で大会前のキャンプは途中参加だったが、それでもあえて彼らを選んだ。

ロイブル・コーチは言う。

「去年の私たちの強みは選手の才能やサイズではなく、ケミストリーだった。チームが一丸となって全力で戦った。ただ、(八村)塁とアイザイア(マーフィー)は私たちに特別なクオリティを与えてくれると思ったんだ」

去年の長所であるチーム力を少しだけ犠牲にし、その代わりに、さらに上を目指せる資質を持った選手を加えたわけだ。足りなかったチーム力は大会前の合宿で磨き、さらに大会中にも日に日に向上していった。

アメリカ戦を避けるため、1試合は勝ちたかった。

その成果は大会初戦から表れた。

大会は、参加16チームが4チームずつのグループに分けられ、グループ内で総当たり戦を行った後に、全チームが成績順に組み合わせられ、トーナメントを戦う形式で行われた。日本が入ったグループCはスペイン、カナダ、マリと強豪が揃った厳しいグループだった。

大会前にFIBAと契約するライターの半分は、日本が下位4チームに入ると予想していた。日本の過去の成績に加え、厳しいグループに入ったことも理由のひとつだった。

もしグループ最下位になると、トーナメントラウンドの1回戦で強国アメリカと対戦することになる可能性が高い。1回戦で少しでも勝ち目があるチームと対戦し、ベスト8入りするには、グループラウンドで少なくとも1試合は勝つ必要があった。

「日本は大会のサプライズ・チームのひとつだ」

その1勝を挙げるため、2試合目のマリ戦に狙いを絞り込んで対策を進めてきた日本だったが、初戦のスペイン戦から相手に食らいついていった。八村と西田優大の両エースを中心に積極的に攻め、激しいディフェンスで高さとスキルのあるスペインを抑えて、ハーフタイムを33−35と2点ビハインドで折り返す。3Qの6分48秒には、西田の3Pでいったん逆転までした。

しかし試合終盤になると、八村をはじめとした選手たちに疲労の色が濃く見えてきた。フリースローも決められず、最後は67−78で惜しくも敗戦した。

それでもこの試合で、日本はこれまでとは違うというところを印象づけた。

対戦の4日後、スペイン代表のルイス・ギル・ヘッドコーチに日本の印象について聞くと、こう語った。

「日本は大会のサプライズ・チームのひとつだ。私がこれまで見てきた日本チームは、個々ではいいプレーをする選手もいたが、チームとしてうまくできていなかった。それが、今回のチームはディフェンスもきちんとやるし、パスをよく回していた。これまでは、日本とプレーすると、ほとんどパスせずにすぐにシュートしてしまっていたけれど、この大会ではとてもいいプレーをしている」

マリ戦ではシェーファー・アヴィ幸樹という新星が。

とはいえスペイン相手にどれだけ善戦しても、マリ戦に負けては意味がない。そのマリ戦では八村が3Q半ば、37−40の3点ビハインドの場面で早くも4ファウル目を吹かれる苦しい試合となった。

競り合ったスコアの中でエースの八村をベンチに下げざるをえないという苦境を吹き飛ばしたのが、八村と代わって出場したシェーファー・アヴィ幸樹だった。身長は203cmと八村と並ぶ長身だが、バスケ経験わずか3年の選手だ。日本のインターナショナルスクールでプレーしていたところを抜擢され、去年のU18アジア選手権から代表入りしている。なおシェーファーは現在アメリカ留学中。秋からはジョージア工科大に奨学金なしのウォークオンとはいえ、入学が決まっている。

シェーファーの活躍とアジアを戦いぬいた選手たちのまとまりで、八村がベンチに下がった直後に逆転するどころかリードを広げた。4Q半ばに八村がコートに戻ってきたときには8点リードを取っていた。その後、再び追い上げられたが76−73で逃げ切り、狙い通りに1勝をものにした。

日本男子バスケ初のベスト8を懸けた決戦の前に……。

マリに勝った後の狙いは、2試合後のトーナメント1回戦。グループ3位となった日本のトーナメント1回戦の相手はイタリアだった。ヨーロッパの強豪だが、勝てる相手だという手ごたえがあった。勝てば、男子日本代表としては初の世界ベスト8入りだ。

試合前、ロッカールームには日本の国旗が掲げられ、ロイブル・ヘッドコーチは選手たちにこう言った。

「きょうはこのU19のチームのためだけにプレーするのではなく、日本の国全体のために戦おう。勝てば世界でトップ8に入れる歴史的な試合なのだから」

選手たちも自信をもって試合に挑んでいた。

「試合前にトーステンから、ベスト8に勝ち進むには一番いい相手じゃないかという話があった。昔とは違って、今はみんなヨーロッパのチームとのほうがやりやすいと言って臨みました」と八村は語った。

この試合でも、鍵となったのはディフェンスだった。約束事を徹底したディフェンスは、このチームにとっての肝。それまでの日本チームがよくやっていたような、速攻狙いの打ち合いでは世界を相手に勝てないという信念のもと、相手チームを徹底してスカウティング。それまでの試合でもほとんど、ディフェンス・ローテーションのミスなくできるようになっていた。

このイタリア戦でも、インサイドを固め、2人のシューターだけ外でもマークするという約束を守り、相手オフェンスを抑えた。特に圧巻だったのはイタリアをわずか6点に抑えた2Q。前半が終わって29−21と日本が8点リードを取っていた。

残り16秒から5点差を追いつく奇跡を見せた。

底力があるイタリアは後半が始まってすぐに追い上げ逆転したが、逆転されただけでは大きく崩れないのが、今回の日本チームの強さでもあった。4Qに入ってからも2点差、同点を繰り返す攻防が続いた。

4Q残り27.2秒の時点で3点ビハインドだった。タイムアウト後の日本は三上侑希が密集した中で3Pを狙うが失敗。逆にイタリアにフリースローを2本決められ、残り16秒で点差は5点に広がった。万事休すと思いきや、そこから八村の勝負強さが発揮された。イタリアのフリースロー1本を挟み、わずか8秒の間に連続2本の3Pを沈め、55−55の同点に追いついたのだ。

しかし、残念ながら奇跡は起こらなかった。その直後にイタリアのオクシリアに難しいジャンプシュートを決められ、2点及ばずに世界ベスト8を逃した。

試合後、ロイブル・コーチは言った。

「ヒーローと敗者は本当にわずかの差。ただ、きょうの私たちが敗者だったとは思わない。選手たちはうなだれず、堂々とコートを去っていいと思う。ミラクルには2点だけ足りなかった」

準優勝したイタリアに一歩も引かなかった事実。

確かに試合に勝てなかったのだから、ミラクルが起こったとは言えないのかもしれない。しかし、この後、イタリアは決勝戦に進み、準優勝しており、そのイタリア相手に一歩も引かず2点差の接戦を戦ったということは、これまでの日本代表では考えられなかったことだ。初戦で終盤まで競ったスペインも大会4位。カナダ(大会優勝)との試合は点差がついてしまったが、ベスト4入りしたチーム相手に互角に戦ったことは、十分に世界を驚かせたと言ってもいいのではないだろうか。

イタリア戦後、八村も誇らしげに言った。

「負けた試合なんですけれど、どんどん世界のレベルに近づいてきているんじゃないかなと思います」

サイズや運動能力不足を乗り越える方法が見つかった。

その後、日本は順位決定戦でアジアのライバル、韓国と、地元エジプトに勝利し、プエルトリコに惜敗し、10位で大会を終えた。10位という成績は、日本男子代表としては歴代最高の順位だ。

大会後に、ロイブル・コーチは言った。

「チーム・ジャパンは大会で一番小さいチームだったが、世界のトップチーム相手に同じ目線で戦う方法を見つけ出した。プレッシャー・ディフェンスとオフェンスのペースを上げることで、サイズや運動能力が不足している分を乗り越える方法を見つけたのです。

これまで、日本の男子代表がスペインやイタリアのような国に勝つチャンスはまったくなかったけれど、このワールドカップで、日本の勝利のチャンスは本物だと示すことができたと思う」

U19での成績が代表の強さに直結するわけではないが。

もちろん、U19の成績が、そのまま自動的に代表の強さにつながるとは限らない。U19後にさらに成長しない限り、今後世界の舞台に立てることすら保証されていない。それでなくても、10代からプロ入りすることが当たり前のヨーロッパやアメリカの選手たちとの差が開き始めるのがこの年代なのだ。

それだけに、日本史上で初めて世界の舞台で互角に戦える手ごたえをつかみ、その方法を示した選手たちには、2020年東京オリンピックに向けてさらに成長する必要がある。この手ごたえを、自分たちに続く選手たちにはもちろん、上の年代の選手たちにも伝え、共に、さらなる上を目指してほしい。

少し前まで暗闇の中で、どこに向かったらいいのかもわかっていなかったバスケットボール男子日本代表にとって、このU19ワールドカップでの日本代表の戦いは、間違いなく、今後の道しるべとなる戦いだったのだから。

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