コラム Column

ダルビッシュとドジャースの快進撃。前田健太すら巻き込まれる生存競争。

文:芝山幹郎
Mikio Shibayama

ドジャースに移籍したダルビッシュ有が順調な再スタートを切っている。8月4日の対メッツ戦(移籍初戦)が7回(99球)を投げて無失点(被安打3、与四球1、奪三振10)。8月10日の対ダイヤモンドバックス戦が5回(106球)を投げて自責点2(被安打5、与四球2、奪三振10)。2戦目は制球に苦しむシーンもあったが、これは珍しくないことだし、つぎはまた別人のような投球を見せてくれる可能性が高い。ゾーンに入ったときのダルビッシュがアンタッチャブルであることは、これまでに何度も証明されている。

カーショー復帰で、前田がローテ外になる可能性も。

では、ダルビッシュ加入は、ドジャースにどのような影響を与えているのだろうか。8月1日から12日までの11戦を、ドジャースは8勝3敗と、依然順調なペースで乗り切っている。先発投手の名を列記してみよう。

1日=前田健太、2日=ブロック・スチュワート、3日=アレックス・ウッド、4日=ダルビッシュ有、5日=リッチ・ヒル、6日=柳賢振、8日=前田、9日=ウッド、10日=ダルビッシュ、11日=ヒル、12日=柳。ウッドとダルビッシュが2勝ずつをあげ、前田と柳が1勝ずつを記録している。

基本形は5人のローテーションで、スチュワートはスポット先発だ。これでクレイトン・カーショーが8月末に戦線復帰すれば、柳かヒルか前田のうち、だれかひとりが先発ローテーションから外れる。いいかえれば、ダルビッシュの加入によって、もともと強力な先発陣はさらに競争が激しくなった。「スーパーカーだらけのガレージに、フェラーリがもう1台加わった」と評したメディアの反応も、あながち大げさとは言い切れない。チーム防御率リーグ1位(3.12)、奪三振数リーグ最多(1100個)、与四球数リーグ最少(304個)。総合力が図抜けている。

生存競争の中で前田も柳も必死の快投を見せた。

ポストシーズンに入れば、ここからさらにもうひとりが先発ローテーションから外される。いや、デイヴ・ロバーツ監督のことだから、先発=長いイニングという定石を無視して、試合序盤から「総動員態勢」を仕掛けてくる可能性もある。いずれにせよ、カーショー、ダルビッシュ、ウッドを除いた3人は、どんな使われ方をされるか、まったく予断を許さない。ここから先は苛烈な生存競争だ。

ただ、こういう状況に置かれると、選手は発奮する。前田は8月1日の対ブレーヴス戦で、7回2安打無失点の好投を見せたし、柳も6日の対メッツ戦で、7回1安打無失点という快投劇を演じた。前田は、2016年のポストシーズンで、3試合に先発して防御率6.75(10回3分の2を投げて自責点8)という悪夢を体験した。首脳陣の先入観を覆すためにも8月と9月に調子を上げ、なんとか先発の一角に食い込みたいところだ。期待大のダルビッシュも……昨年のALDS(対ブルージェイズ戦)で5回5失点(被本塁打4)と乱打乱撃された過去があるだけに、短期決戦では気を引き締めてかかる必要がある。

便利屋から打線の主軸へと成長したターナーの存在。

一方、ドジャース打線は相変わらず好調を維持している。原動力の第一は、'16年にコーリー・シーガー、'17年にコーディ・ベリンジャーと、2年連続でスーパー・ルーキーを送り出したことだ。そして第二のエンジンは、ジャスティン・ターナー(32歳)とクリス・テイラー(26歳)の進化だろう。

ターナーは、4年前までメッツの控え選手だった。ユーティリティ・プレイヤーといえば聞こえはよいが、内野ならどこでも守れるという便利屋の扱いで、年間打率2割7分、本塁打3本程度が地相場。このままくすぶりつづけてもおかしくない選手だった。

ところが、ドジャースに移ってからは、じわじわと力を伸ばしてきた。球団側もその成長を認めた。ターナーがFA権を取得した昨年11月直後に4年総額6400万ドルの好条件を提示して2020年までの契約を締結したのだ。今季の報酬は1300万ドル(20年には2000万ドル)。メッツ時代に比べると30倍近い金額だ。

打率3割超、本塁打17のテイラーも1番として文句なし。

今季のターナーは、6月19日に打率を3割9分9厘にまで上げて、全米を沸かせた。7月の不振で8月12日現在は3割4分4厘に下がったものの、MVPレースの有力候補であることに変わりはない。本塁打数も、昨年と同じ27本前後まで行くのではないか。

さて、もうひとりのクリス・テイラーは、別人のように大化けした選手だ。過去3年間のOPS+平均値が約70だったのに、今季のOPS+は141。打率3割1分、本塁打17、盗塁数13は、一番打者として文句のない数字だ。主砲エイドリアン・ゴンザレスの長期欠場や期待株ジョク・ピーダーソンの伸び悩みを補ったのは、テイラーの成長といっても過言ではないだろう。

30球団ナンバーワンの四球数が、本塁打を生かす。

最後にもうひとつ、今季のドジャースには、見逃しがたい強みがある。四球の数が、30球団中最も多いことだ。総数474個。2位のヤンキースが436個、3位のカブスとツインズが427個だから、これは他を圧している。

この四球の多さが、本塁打を生かすことになった。169本の本塁打総数はナ・リーグ3位タイ(1位はメッツの172本)だが、ソロホーマーの多かった昨年と異なり、今季は走者を置いての本塁打が増えている。安打数(リーグ9位)の割に得点数が多い(リーグ3位)のもこの成果だろう。要するに、効率がよい。冒頭に紹介した投手陣のスタッツと組み合わせれば、事情はさらにはっきりする。ドジャースは、「最も多く四球を選び、めったに四球を与えない」チームなのだ。こういうチームは、大崩れしない。ポストシーズンを含めてあと2カ月半、中心選手に故障が発生しないかぎり、ドジャースにはビッグ・チャンスが巡ってきそうだ。

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