コラム Column

ルーニーが久々に味わう人の愛情。2戦連発、通算200得点と代表引退。

文:山中忍
Shinobu Yamanaka

言うなれば「Win-Win-Winシチュエーション」だろうか。関係する双方に利益がある状態を英語で「Win-Win」と表現するが、ウェイン・ルーニーのエバートン復帰は三方にプラス効果がもたらされている。

今秋で32歳になるルーニーを13年ぶりに呼び戻したエバートン。ストークと強豪マンチェスター・シティとの開幕2試合で、ルーニーの計2得点の活躍もあって勝ち点4を獲得した。「心のクラブ」に戻った男の2試合連続ゴール。イングランド国民は、「母国の至宝」とまで呼んだ「エバートンのルーニー」に対し、再び愛着と感謝の気持ちを取り戻すことができた。

期待の裏返しか、人々は最盛期だった頃のルーニーに非常に厳しく接した。代表戦でもスティーブン・ジェラードがクラブの垣根を越えて敬愛された一方で、ルーニーは期待外れに終わると、その叩かれ具合はひどかった。リバプールでキャリア晩年のジェラードがベンチに座ると「先発させるべき」との声が少なくなかったが、昨季のマンチェスター・ユナイテッドで控えにとどまるルーニーには「もう終わった」との声まで聞かれた。

だが、プレミアで「最後のひと花」を選んだ今夏の移籍を機に、国民がルーニーを眺める目は優しくなった。エバートン復帰が「いい話」として歓迎されたことは、内心では「残念な結末」を覚悟しているような不安も窺えた。しかしルーニーがゴールを決めることで、国民は堂々と喜びを表せるようになった。

開幕戦で突き刺した「ドリーム・ゴール」。

ここ数年評価が一段と厳しかったメディアでさえそうだ。

それはルーニーの逆を行くかのようにエバートンからマンUへと移籍し、2試合3得点を挙げているロメル・ルカクと比較してもだ。メディアで「ドリーム・ゴール」と表現されたストーク戦での得点シーンは、解説者のジェイミー・キャラガーが「プレミア開幕節で最高の瞬間」と言うほどだった。

ヘディングシュートが相手GKの上を越えてネットを揺らすと、ルーニーはホームのサポーターで埋まるスタンドの前へと両膝でスライディングし、天を見上げて歓喜の叫び声を挙げた。このゴールセレブレーションを見た者は、キャラガーに限らず誰もが同感だろう。

ゴール前でのクレバーさは30代になっても衰えない。

一度ボールを外にはたきつつ、ダイアゴナルラン(斜め前方への走り)でボックス内へと入り込んだ動き、クロスを正確かつ強烈に捉えたヘディングとハイクオリティなゴールだった。その試合後には「13年前に時間を巻き戻した」と評されたが、続くシティ戦後には「チームを進化させられる」とまで言われた。

与えられたポジションは、2試合とも3-5-2のセカンドストライカー。移籍当初「ベストポジションがどこかもわからない」との声もあったが、ロナルド・クーマン監督はFWとして起用している。プレーの展開を見ながら、ペナルティエリア手前で一呼吸おく余裕があったからこそ、シティ戦でフリーになって右足で合わせられた。経験に裏付けられたクレバーさは、30代になったからといって衰えるものではない。

しかもシティから奪った先制点は、ダビド・シルバのポスト直撃シュートの約50秒後。ゴールが決まったのを見届けると、まずは両手を広げて走り、続いて罵声を浴びせるシティファンをからかうように両手を耳の横に持っていき、その手を自軍ファンの前で握り拳に変えて闘志むき出しの形相で吠えた。ルーニーの行動にエバートン陣営は頼もしく思ったことだろう。

若手、ベテランのチームメートを刺激する存在に。

そのルーニーに抱き着いて祝福したドミニク・カルバート=ルーウィンと、メイソン・ホルゲートも同感だったに違いない。2年目のクーマンが体制下で若返りも進むエバートンは、20歳の両者を含めて国産の若手5名が先発起用されていた。昨季はトップ6勢とのアウェーゲームで4敗2引分けに終わったこともあり、精神面強化が課題となっている。

ルーニーはシティ戦でのゴールでも周知の通り、敵地でのビッグゲームにも動じない。2戦2アシストのカルバートらは、ピッチで大先輩から学ぶことも多いだろう。またシティ戦でチーム最高の11kmを走破したハードワークも、チームメイトを刺激するはず。3バックの中央を務める35歳のフィル・ジャギエルカは、スライディングタックルにシュートブロックにと、全盛期を彷彿させる守りを見せていた。

シアラーしか達成していないプレミア200得点も樹立。

シティ戦はリードを守り切れず1−1に終わったが、翌朝に国内各紙のスポーツ面は、ルーニーがプレミアでの自身200点目を決めたことを大々的に伝えた。

俗に「200クラブ」と呼ばれるプレミア200得点のメンバーは、今のところルーニーとアラン・シアラーしかいない。14年間で260得点を記録したシアラーの凄さにも改めて驚かされるが、FWだけでなく、サイドハーフや中盤センターでも起用されながらも達成したルーニーもさすがだ。

ちなみに1ランク下の「100クラブ」でさえ、現役メンバーは3名のみ。今季2節終了時点で123得点のセルヒオ・アグエロ(シティ)は29歳、「200クラブ」に最も近い158得点のジャーメイン・デフォー(ボーンマス)は34歳。残る1人は、昨季36歳で100得点を記録したピーター・クラウチという状況なのだ。

代表引退によって、エバートンでの活躍に期待が。

記念すべきリーグ戦200得点の翌々日に、人々をさらに驚かせたのは代表引退だった。「スリー・ライオンズ」での選手生活に終止符を打つとの声明が発表され、ガリー・リネカーが「代表時代の大半をチーム唯一のワールドクラスとして過ごした」として敬意と同情を寄せた。そんなルーニーに、エバートンでの「もうひと花」を願う国民の気持ちはさらに強まったのではないか。

代表発表を4日後に控えていたシティ戦後、ルーニーに対しては代表に関する質問も出た。その時は「ガレス・サウスゲイト代表監督と話をすることにはなると思う」と快投し、代表復帰への意思表示と受け取られた。

だが肝心の本人は、サウスゲイトに代表引退を告げるために話をするつもりだった様子。復帰要請の連絡を受けた翌日に、招集辞退と代表引退を発表した。ルーニーが覚悟を決められたのは、エバートン復帰による精神面の充実と、現役最後と見られる2年契約に懸ける決意のおかげだろう。

「いつかは代表チームの夢が叶う時が来る」

決意の一部には世間を見返す気持ちもあるに違いない。シティ戦後のインタビューでは、「フィットネスも落ちて動けない奴にしては悪くないよね」と、自身のパフォーマンスを振り返ってもいた。

微笑みながら冗談混じりではあったが、昨季であればメディアへの「嫌味」と伝えられていた可能性もある。だが今季は健在な証拠として前向きに受け止められている。

エバートン注力を意味する代表引退声明の中で、「国際大会でイングランドの成功を味わえなかったことが数少ない心残りの1つ」と述べたルーニーだが「いつかは代表チームの夢が叶う時が来る。1人のファンとしてでも、とにかくどんな立場でも、その瞬間に立ち会いたい」と結んでもいる。

その前にまずはクラブ、本人、国民が揃って望む「夢のルーニー復活劇」が、開幕当初だけの「夏の夜の夢」に終わらないことを1人のプレミア・ファンとして願う。

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