コラム Column

MLB最強の小さな巨人アルトゥーベ。160cm台のレジェンドは過去にも。

文:芝山幹郎
Mikio Shibayama

ホゼ・アルトゥーベが、今年も打ちまくっている。2017年8月29日現在、安打数=175本(ア・リーグ1位。2位はエリック・ホズマー)、打率=3割5分6厘(リーグ1位。2位はアビサイール・ガルシア)、出塁率=4割1分5厘(リーグ1位。2位はアーロン・ジャッジ)、長打率=5割6分5厘(リーグ3位。1位はジャッジ)、OPS=9割8分(リーグ2位。1位はジャッジ)、WAR=7.1(リーグ1位。2位はアンドレルトン・シモンズ)という数字は堂々たるものだ。

もちろん、マイク・トラウトの存在は無視できない。いまのところ規定打席数に届いていないが、残り全試合に先発出場すれば、出塁率や長打率など打撃各部門で上位に顔を出す可能性がある。ただ、アルトゥーベが「4年連続200本安打」を記録し、「3度目の首位打者」を獲得する妨げにはならないはずだ。

MLBで大活躍した160cm台の選手は、かなりいる。

ところで——。

以前も触れたが、アルトゥーベの身長は5フィート6インチ(167.5cm)だ(実際は165cmともいわれる)。現役のスターで、これほど背の低い選手はほかにいない。小柄だなと感じさせるダスティン・ペドロイア、ムーキー・ベッツ、ホゼ・ラミレス、青木宣親らが175cmだから、アルトゥーベとはだいぶ差がある(松井稼頭央も178cmあった)。投手で一番小さいマーカス・ストローマンでも173cmと、5cm以上背が高い。

では、昔はどうだったのだろうか。

最初に頭に浮かぶのは、1910年代から23年間も現役を張りつづけた名遊撃手のラビット・マランヴィルだ。身長165cmのマランヴィルは、43歳で引退するまでに2605本の安打を積み重ねた。実働23年という数字も、ピート・ローズ('86年に実働24年を記録)に抜かれるまでは史上最長だった。

'20年代から'30年代にかけては、ジョー・スーウェル(167.5cm)がいた。この人は、ワールドシリーズに縁があった。新人の年(1920年)にインディアンスで、引退1年前('32年)にヤンキースで、ともに世界一を経験しているのだ。

連続MVPのモーガン、打撃タイトルを獲ったパケット。

'40年代から'50年代にかけては、フィル・リズトー(167.5cm)が際立っている。ヤンキース一筋の遊撃手で、兵役が3年あったために実働年数は13年だが、'50年には打率=3割2分4厘、WAR=6.7の好成績でMVPに選出されている。今季終了時、アルトゥーベのWARがこれを上回れば、身長168cm以下の選手のなかでは20世紀以降最高の数値となる。

もっと近いところでは、ジョー・モーガン(170cm。二塁手)やフレディ・ポーテク(165cm。遊撃手)やカービー・パケット(173cm。外野手)の名が浮かぶ。モーガンやパケットは、現役時代の姿を覚えている人も少なくないだろう。

モーガンは、'75年、'76年と2年連続でMVPに輝いた。2年連続でワールドシリーズを制したレッズ(ビッグ・レッド・マシーン)の中心選手で、出塁率が高く、小柄なのにパワーがあるところは、アルトゥーベと共通する。'76年には出塁率=4割4分4厘、本塁打=27本というめざましい成績を残している。

豆タンクの異名をとったパケットも懐かしい。シカゴのスラムで生まれ、ワールドシリーズ制覇は2度経験している。緑内障のため30代中盤で引退し、心臓病のため'06年に45歳の若さで急死した人だが、ミネソタのセンターを守ってゴールドグラヴを6回受賞し、首位打者と打点王も1度ずつ獲得した。

アルトゥーベとジャッジの身長差は33cm。

アルトゥーベは、これら名選手に伍してもまったく引けを取らない。もしかすると史上最高の「小さな大選手」になる可能性も秘めている。それにしても、打撃各部門でしのぎを削るアーロン・ジャッジ(200.5cm)との身長差は33cmもある。

われわれの眼は、どうしても背の低いアルトゥーベに向かいがちだが、実をいうとジャッジも球界では少数派だ。サイ・ヤング賞有力候補のクリス・セールや本塁打王本命のジャンカルロ・スタントンは198cm止まりで、ジャッジよりものっぽの有名選手といえば、アンドルー・ミラー、デリン・ベタンセス、ダグ・フィスター、クリス・ヤングぐらいしか見当たらない。全員が投手で、ヤングの身長は、馬場正平(ジャイアント馬場)と同じ208cmだ。そういえば、楽天イーグルスで1年だけ投げたルーク・ファンミルは216cmの長身だった。大リーグ経験はないが、オランダ代表としてWBCには参加していた。アルトゥーベとの勝負を見てみたい気もする。

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