コラム Column

ジェフ千葉から消えた脂身と白米。監督が持ち込んだ食事革命が凄い。

文:杉園昌之
Masayuki Sugizono

9年ぶりのJ1復帰を目指すジェフユナイテッド千葉は、今季、いままでにない大改革を進めている。

エスナイデル新監督が率いるチームは、極端なまでのハイラインで守り、猛烈なハイプレスをかけ続ける。前にも後ろにも、とにかく走るのだ。夏場でも、その運動量が落ちることはない。なぜ、そこまで走れるのか——。

監督は「そこにミステリーはない」と言葉に力を込める。厳しいフィジカルトレーニングを課しているのは想像に難くないが、それだけではない。強度の高い練習をこなす体作りから見直し、徹底して食事改善に取り組んでいるのだ。

現役時代、イタリアのユベントス、スペインのレアル・マドリーなど、欧州の名門クラブでプレーしてきた元アルゼンチン代表にとっては、当たり前のことを当たり前にしているだけだという。

脂身、濃い味、白米が並ぶ食事に監督があ然。

きっかけは、シーズン開幕前の沖縄キャンプだった。

「なぜこんなに味付けが濃くて、脂っこいものが多いんだ!」

エスナイデルは、宿泊ホテルのビュッフェ形式のレストラン会場であ然とした。

テーブルに置かれたメイン料理は脂身のある牛肉、味付けされた豚肉に皮の付いた鶏肉、それに濃い味付けの魚まで……。

パスタのソースも選び放題で、おかずもよりどりみどり、まさにリゾートホテルで食事を楽しむそれだった。選手の皿を見ると、牛肉、豚肉、鶏肉などがてんこ盛り、さらに白米まで添えられているのを見ると、ふつふつと怒りが込み上げてきた。

「これはアスリートの食事ではない!」

欧州の一線で活躍してきたプロフットボーラーの常識では、考えられないメニューだった。

「私が要求するフィジカル的な負荷に対応できるようにするためには、食事から改善しないといけない。食事の質をもっと上げるべきだ。栄養価の高いものを摂り、無駄な脂肪は摂る必要はない」

監督から毎日のように届く調理法のリクエスト。

体脂肪率は、12%以下にすることを徹底。監督は現役時代から信頼を置くアルゼンチン在住のフィジカルトレーナーの助言を受けながら、すぐに「食事改革」を断行した。高橋悠太GMをはじめ、チームスタッフに有無も言わさず、献立の変更を指示。沖縄キャンプ2日目からメイン料理は1種類のみとなり、パスタのソースも消えた。食事の手配をするマネジャーの福島佑馬は、監督に言われるがままにホテル側へ細かくオーダーした。

「肉の脂身を全てカットし、素焼きでお願いします。豚肉は一切なし。パスタはゆでるだけで大丈夫です。ソースはなしで、粉チーズとタバスコだけを置いてください。フルーツ、ドライフルーツ、ナッツ、ヨーグルトは用意してほしいです」

ホテルからは「本当にそれでいいのですか?」と確認されたという。

主食の白米も玄米へ変更。これが大変だった。ホテルには用意がなく、自前で調達することに。福島マネジャーは高橋GMと一緒に沖縄のスーパーマーケットを駆け回り、数日かかって3軒からキャンプ全日程分の玄米を購入した。ホテルに持ち込むと、調理場では玄米を炊いたことがなく困惑。一度試し炊きして、水の加減なども確認した。

舞台裏でてんやわんやの大騒ぎをしているなかでも、監督からは毎日のように脂を使いすぎない調理方法や味付けまで細かいリクエストがきた。福島マネジャーは、「ホテル側に急で無理なお願いもした」と申し訳なさそうに話す。

当初は「味がしないし、肉は固すぎる」と不評。

「いまではすっかり(監督の要望にも)慣れましたが、キャンプは地獄のようでした」と苦笑しながら振り返る。当初、一部の選手からは「パスタは味がしないし、(素焼きの)肉は固すぎる」と不満も出たが、「全ては監督の決めたことだから」と言い聞かせた。

キャンプが終わり地元の千葉に戻ると、クラブの栄養士にも協力してもらい、食事管理を続けた。千葉のクラブハウスは食堂を完備しており、「節制メニュー」を毎日、全員の選手たちに食べさせることができる。こだわっているのはメニューだけではない。食べる分量、食事を摂る時間、1日の食事回数もすべて決まっている。

町田「焼き方を失敗した肉かなと思ったくらい」

8月のある日、午前10時のチーム練習が終わった昼食時の12時半。千葉のクラブハウス2階にある食堂には、選手のほぼ全員がそろっていた。ビュッフェ形式でそれぞれが料理をトレーにのせていく。

メインのおかずは鯖の素焼き1品のみで、味付けはすりおろしポン酢。玄米、パン、パスタは選べるが、ソースは脂分を抑えるためにじゃが芋豆乳ソースのみ。汁物はコーンスープ。サラダと付け合せの納豆、梅干し、漬物に加えて温野菜、ヨーグルトと一緒にドライフルーツ、ミックスナッツ、はちみつ、ジャム、玄米フレークが用意されている。そのほかにはプチトマト、フルーツがあるだけで、飲み物は牛乳、果汁100%のオレンジとりんごのみ。鉄分強化のための補食メニューとして、牛肉の高野豆腐炒めがあった。

食堂に張り出される1週間の献立表を見ると、メインのおかずは常に1品で、魚の素焼きか牛または鳥の素焼きばかりが並ぶ。赤身の牛肉は、やはり固いようだ。当初、町田也真人は「焼き方を失敗した肉かなと思ったくらい。あごが痛くなるほど」と苦笑いを浮かべていた。

朝食は400から700キロカロリー。

午前練習前の朝食は、消化最優先のメニュー。胚芽パン、くるみパンなどライ麦などを使った「黒いパン」を主食として、小麦を精製した「白いパン」はNG。玄米フレーク、ミューズリー、さらにはカットフルーツ、ヨーグルト、ドライフルーツ、素焼きのミックスナッツ(塩分カット)が並ぶ。選手の個人差はあるが、摂取するのは400キロカロリーから700キロカロリー程度だという。

朝食は午前8時、昼食は午後12時半からクラブハウスの食堂で、基本的に全員そろって食事を摂ることを義務付けている。帰宅後も特製メニューのレパートリーがあり、午後4時に軽食、午後8時に夕食を摂るように勧めている。

アウェーの宿泊ホテルでも、「節制レシピ」は変わらない。玄米がなければ、マネジャーがすぐに配送の準備を整える。調理方法のリクエストも、どこのホテルに泊まっても同じだ。

体脂肪率や体重がハッキリ変わり、今では選手も……。

食事管理を始めて約半年。週に1度、体組成計で体脂肪率、筋肉量、体重などを事細かくデータを取っているが、その数値は見違えるように変わった。選手たち自身も、体の変化を実感している。

体脂肪率が4%、体重は4kgも減少した主将の近藤直也は「体はすごくいい状態。腸のコンディションもいい。体の内側から変わってきている」としみじみ話す。「食事もトレーニング」として割り切っており、「それがプロ。カレーが好きだったけど、今年は1回も食べていない」と笑う。

大学時代から連戦が苦手だった町田も毎試合のように前線から走り回り、「今年は動けている感覚がある」とコンディションの充実ぶりを口にする。家では夕食に麦ご飯を妻と食べており、「やってみないと分からないもの。効果はあるんですね」と納得している。

エスナイデルは確かな手応えを感じている。

「選手たちの意識は高くなっている。セルフケアの意味が分かってきた。サッカー選手は24時間、サッカー選手であるべきなんだ。体は商売道具、ケアして当然」

選手の体をF1の車体にたとえながら、最高のマシンでも悪いガソリンを入れれば、ベストパフォーマンスは発揮できないという。

「食べるべきものを正しく食べれば、もっと走れる」

エスナイデルの言葉は自信に満ちていた。選手たちのフィジカルパフォーマンスは着実に上がっている。あとはピッチで結果を出すだけだ。

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