コラム Column

吉田麻也を正当に評価してもらう。戸田和幸「日本人CBで総合力No.1」

文:茂野聡士
Satoshi Shigeno

ロシアW杯最終予選の日本代表、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は試合ごとに陣容を入れ替える采配を見せた。その中で唯一フルタイム出場を果たしたのが吉田麻也だった。

初戦のUAE戦で警告を受けながら、最終戦のサウジアラビア戦まで2枚目の警告を受けず、長谷部誠不在時にはキャプテンマークを巻き、最終予選のMVPに名を挙げる識者も多い。

29歳にして充実の時を迎える吉田。そこで、プレミアリーグなど国内外の試合を数多く解説する戸田和幸氏に、その成長ぶりについて語ってもらった。

センターバックとしてのトータルバランスが高い。

——今回は「センターバック吉田麻也」という選手の能力を正しく評価したい、というテーマでお話ししていただこうと思っています。まず根本的なところなのですが、彼のセンターバックとしての特徴から教えていただけますか?

「プレミアリーグのセンターバックと言えば、少し前で言うとリオ・ファーディナンドやジョン・テリー、現在ではストーンズ、コンパニ、アルデルヴァイレルトなどが代表的な存在だと思いますが、吉田選手も彼らと同じくトータルバランスに優れたセンターバックだと見ています。

身長189cmは日本人としては非常に大きいですが、イングランドではそのサイズがCBとしてのスタンダードとなるので彼の高さ自体が大きな特徴にはなりませんがジャンプのタイミングや落下地点の予測が良いので空中戦にも存在感を見せています。

スピードに関しては、昨シーズン途中にスプリントのスピードが速くなったとのニュースもありましたが確かに最初の10m、それから反転する動きとその後の足の運びは確実によくなってきると感じます。

またセンターバックとしてはプラスアルファの要素になりますが後方から安定した配球ができるのも彼の強みです。

もしセンターバックとしての能力を数値化して図形で表すならば、日本のセンターバックの中では最もバランスの取れた尚且つそのサイズが大きなその選手だと思います。

そして地道なトレーニングやレギュラーとして出場し続けてきた事でその面積が少しずつ広がってきた印象です。

インターナショナルレベルにおいて図抜けた身体能力を持ったCBではありませんが、それを正しく理解した上で頭を使ってプレーすることが出来ています」

本人も「難しいことをしすぎない」と。

——今年に入ってから、吉田選手のサウサンプトンでのプレーパフォーマンスが急激に上がってきた印象を受けます。戸田さんの目にはどう映っていましたか?

「身体的なビルドアップ含め、コンスタントに試合に出られなかった時期に地道に積み上げてきた努力が、前主将のフォンテが移籍したタイミングで訪れたチャンスを掴みにいった時に、一気に花開きはじめたというところでしょうか。

何よりもリーグ戦にコンスタントに出場できるようになって「自分は出来る」というそれまで内に秘めていた思いを、しっかりとピッチの上で証明した事で得られた大きな自信と評価が彼を変えたのだと思います。

昨シーズンの序盤戦は基本カップ戦要員でした。その中で冬にチャンスを掴むことに成功しましたが、当初ファン・ダイクとセンターバックを組んでいた時は、圧倒的な個人能力で存在感を示すパートナーに対し吉田選手はフォロワーとしての役割を担っていました。

そのファンダイクがしばらくして怪我をして以降、彼が最終ラインのリーダーと変わっていく事になりましたがその辺りが彼が一皮むける事に繋がった、変化したタイミングだったのではないかと思います。

ウェストハムに移籍したフォンテからは移籍をする時に『これからは今までよりもっとマヤがリーダーシップを取っていくんだよ』と言われたそうです。それだけ吉田選手が選手達から信頼を得ていたという事だと思いますし、今年1月に現地で話を聞かせてもらった時に見せてもらったのですが、クラブの公認マガジンの表紙に吉田選手が選ばれ彼のロングインタビューが掲載されていました。そういった扱いを受けている点でも、現地での評価と信頼が上がっているのだなと強く感じました」

——吉田選手は現地メディアの取材で英語で応えていますよね。そういった部分も評価にあるのかもしれません。

「きちんとした英語を使いこなせますし、言葉を生かす為のコミュニケーション能力も高いと思います。

またリーダーとしての自覚みたいなものも芽生えつつ無理にそう振舞おうとはしていない、自然体なところも今の評価に繋がっているのだと感じます。

その中でもピッチの上では味方に対し厳しく要求する姿も見られるようになり、それまでには見られなかった自信や風格が少しづつ出てきていますし、ファンダイクが怪我をしたことによりセンターバックを組むパートナーがスティーブンス(23歳)に変わったところからは“オレがやらないと”という引っ張っていく側としての責任と自覚が出てきた。フォロワーからリーダーに変わった事で新たなフェーズに入り始めたタイミングだったのではないでしょうか。

当初はやや不安定で心許ない感もあったセンターバックコンビでしたが、このチャンスは絶対に逃さないという吉田選手の思いの強さとパフォーマンスの高さ、そしてスティーブンスの成長もありリーグカップはファイナルまで進出するという結果も残し素晴らしいシーズン後半となりましたね」

——29歳の誕生日に3年間の契約延長をつかんだというのも、信頼の証拠ですよね。

「そのクラブに加入しただけでなく働きを評価されて契約を延長したわけですから、これはもう素晴らしいの一言です。

冒頭に吉田選手はセンターバックとしての総合力に優れているという話をしましたが、とは言えイングランドのセンターバックに求められるのは“守ってなんぼ”という事です。

これはイングランドに限った話ではありませんが、海の向こうの世界においてセンターバックに何より求められているのは、相手のストライカーを止めること。

とにかく止めることです。

ですから彼自身もセーフティーファーストで難しいことをしすぎないように意識をしている、と話してくれましたし、実際の試合を見ていても繋ぎたいけども繋げなかったら……という場面ではあえてシンプルにクリアをするといった迷いのないはっきりとしたプレーを選択する判断を下すようになっています」

アグエロ、サンチェスを止めれば評価は突き抜ける。

——昨季はリーグカップ決勝でマンチェスター・ユナイテッドと対戦。イブラヒモビッチとのマッチアップで渡り合う場面もありました。

「相手ストライカーに対して臆することなく正しいタイミングでコンタクト出来るようになってきたし、チャレンジするべきかする格好を見せて下がるかといった判断も洗練されてきましたが、頭で考えて理解出来ていることをピッチ上でその通りに実践できるようになってきたのだと思います。またサウサンプトンというチームはガッビアディーニやタディッチ、ロング、セドリックにバートランドなど一流の選手は揃っていますが所謂スーパーな選手はいません。

ですからプレミアリーグの中ではあくまでもグループとして闘っているチームです。

そういう意味ではサウサンプトンというチームが持つグループで闘うというチームスタイルに於いてセンターバックに求められる役割としてはパス出しの能力、前線と中盤のプレスに連動したポジショニングや戦術的なコーチングといった要素が必要となりますがそれは吉田選手の持つ能力に非常に合致していると思います。

これが例えばイングリッシュスタイルが色濃く残っているレスターやバーンリー、または基本劣勢を強いられる昇格組といったクラブになるとセンターバックに求められる仕事は強靭なフィジカルを持った上で来たボールを跳ね返すことが主な仕事になってきますので仕事の内容は大きく変わります」

——とはいえ、プレミアではマッチアップするストライカーも世界有数の選手たちです。どうしてその中で吉田選手は戦えているんですか?

「例えば第2節のウェストハム戦、後半29分のシーンが象徴的です。左サイドのクレスウェルから入ったクロスを、スティーブンスと吉田選手の間に入り込んだサコにヘディングされ、バーに当たったボールをチチャリートに押し込まれて同点ゴールを決められました。あの状況で吉田選手は展開された状況に対してしっかりスライドしつつサコの事も意識出来ていましたが、それ以上にクレスウェルのクロスのタイミングが少しだけ早くまた質が高かった。展開に対する予測と反応が出来ていてポジショニングもほぼパーフェクトに取れていてもそのほんの少しの遅れやズレが失点に繋がってしまう。それが世界のトップレベルのサッカーだと言えますし、吉田選手が生きている世界の日常だと思います。

たったワンステップ、ほんの少し体の向きを間違ってしまったらやられてしまう、これは以前本人から直接聞いた言葉ですがその世界にいる者だからこその説得力がありました。

例に挙げた試合ではその一瞬を突かれてしまいましたが、そういったレベルのやり取りを日常的に経験できているのは日本人センターバックでは彼一人だけですし、その極めて高いレベルの闘いにおいて着実に成果を挙げられるようになってきたからこそ、3年間の契約延長や8月のクラブ月間MVPに選ばれるといった結果が出ているのだと思います。

これは他のなにを持ってしても補う事が出来ない絶対的な事実であり、世界トップレベルのせめぎ合いの中、彼はまさに生きた経験を日々積み重ねているのです。

そしてそのウエストハム戦では失点した後、終盤には攻撃参加をして自らがPKを獲得するなど最終的にチームを勝利に導いた。

センターバックとしてのパフォーマンスだけでなく、逆境に対するメンタル面でのたくましさも感じる事が出来ました」

——いわゆる“やられる”状況すら、生きた経験と言えるのかもしれません。

「マンチェスター・ユナイテッドとのリーグカップ決勝でも、最終的にはイブラヒモビッチにヘディングでやられてしまいました、先ほど話したウエストハム戦、昨シーズンで言うとマンチェスター・シティ戦ではCKからコンパニに上からヘディングを叩きつけられて決められましたし、アーセナルのサンチェスには難しい状況にての最後体を投げ出して止めに行きましたが、そのわずかな遅れが決定的な遅れとなりシュートフェイントで完璧にかわされ決められたものも僕個人としては印象に残っています。

それは本当にほんの少しの遅れやズレがきっかけとなり失点に直結しているのですが、それを実際に言葉ではなく身を持って体験し知っている、これが何よりの強みになりまた財産にもなるのです。

だからこそ彼は非常に丁寧にまた細やかな仕事をするし、味方に対しても要求する。その「感覚」と「理論」は日本サッカー界にとっては文字通り宝となるものですから、代表チームにおいても今まで以上にリーダーとしてチームを引っ張っていく働きを期待しています。

そして付け加えるとすれば、今シーズンは上に挙げた世界トップの選手達との闘いにおいて、昨シーズン以上の結果を期待していますしそれが叶った時にはセンターバックとして突き抜けたレベルへ進むことになると思います」

クラブより代表の方が仕事が難しいのでは?

——先ほど自信がついたという話がありましたが、それは代表でもそうなのでしょうか。

「川島選手や長友選手といった経験豊富な年長者と共に最終ラインで良い働きを見せてくれているのは間違いありませんが、僕個人としては彼には所属クラブでのようなリーダーとしての振る舞いを期待したいですしそれは守備組織の構築という意味でも同様です。

以前は森重選手が、現在は昌子選手がパートナーを務めていますがセンターバックとしてのキャラクター、そして相性の両面で見て昌子選手の方がより組みやすいのではないかと見ています。

昌子選手は自分のマーカーに対する対人能力・高さ・スピードを持ちながらも状況判断にも優れているので、時には自分のマーカーを捨てて前後左右へボールを奪いに行く判断が出来ますしラインコントロールの部分についても非常にマメにきびきびとした作業が行えます。

今の日本代表においては吉田選手が能力、経験値を考えればリーダーになって当然の選手です。その彼の考え方やパフォーマンスに対して国内の選手は感化されて追いついていく必要があると考えていますし実際に昌子選手は吉田選手に対して積極的にコミュニケーションを取りながら良い関係を築きつつある。

ですから吉田選手を軸としたセンターバックのユニットについては、今この2人がベストだと思います」

——サウサンプトンと代表、どちらでも主力ですが何か吉田選手のパフォーマンスで違いを感じる点はありますか?

「個人的な見解ですが、代表チームでの方が難しい仕事となっているのではないでしょうか。何故なら代表の戦い方は試合によって変わっているからです。

もちろんクラブチームであり、日常的に連携面を深めることが出来るサウサンプトンと比較したらクラブと代表の違いという一言で終わるかもしれませんが、ここまでの闘いを振り返ると代表の方が戦術的に未成熟な為に結果的にはセンターバックに負担がかかってくる試合が多いと言えます。それは最終予選を振り返ってもアウェイでのイラク戦、最終戦のサウジアラビア戦だけでなく、上手くいったように見えたアウェイでのUAE戦においても採用するシステムの使い方や個々人に対する役割が状況によって不明瞭となる部分があり何とか最後のところで凌ぐという場面が多かった。

例えばオーストラリアは3バックを採用した上で徹底したポゼッションサッカーを展開しましたが、技術レベルは決して高くなく、ビルドアップ時の動きもないので日本は前線からのプレスが非常にハメやすかったし、実際に敵陣でのプレスは面白いようにハマった。しかしレベルが上がると個々人のテクニックや判断はもちろん、3バックの幅が変わったり中盤センターが最終ラインに入ってビルドアップを行ったり、ワイドの選手が左右非対称にポジションを取ってきたりと様々な変化・違いを出してきます。

その時こそ初めてチーム全体での対応力が試されます。実際、サウジアラビア戦では相手が4バックだったこともあり、3トップによるプレッシングはオーストラリア戦のようなものは見せられず、また相手のボランチが下りて陣形に変化を付けながらビルドアップのスタート部分に動きと工夫を加えてきたこともあり、日本はどこから奪いに行くのか決められず全体に迷いが生まれ連係にもずれが出ました。

結果、前線や中盤でのプレスが中途半端になりギャップを使われてしまいました。

そうなると最後の砦であるセンターバックが苦しい対応を強いられるシーンが増えてしまうのは当然で、もちろんそんな中でも無失点でという思いはあるのでしょうが、そこには当たり前に相手が存在する訳ですから両チームの戦略・戦術面をきちんと把握しつつ、試合を見て分析したうえで検証していくべきだと思います」

CBやGKは本当に残酷なポジションだからこそ……。

——これはセンターバックの損な部分だと思うのですが、失点シーンが大きく取り上げられやすいという面があります。

「それだけ責任が大きな、別の言い方をすると残酷なポジション・仕事だという事です。

但しメディアで仕事をしている者としては、失点シーンにつながったきっかけとなったのはどこだったのかというところから遡ってきちんと検証していく必要があると考えています。

そういった部分がメディアに於いてまだ成熟してないという事も失点=GK・CBとなってしまう理由だと思います。

何故その現象が起こったのかというディテールの部分にまできちんと目を向け原因から探っていく事をしなければ、実際にピッチで起きている出来事を正しく伝えていく事にはなりませんし、物事に批評はあって然るべきですが、自分も含めピッチで起こる細部にまできちんと目を向けつつ言及をしていかない限り、選手達との信頼関係を構築する事は難しくなるのではないでしょうか。

例えばサウジアラビア戦での失点については、まずチームとして相手のポゼッションプレーに対しスリーラインの機能が果たせていないことがまず理由として挙げられますし、自陣で守備をする際の中盤3人の役割分担が不明瞭だったことが原因で中央突破を許す斜めのパスをバイタルに入れられてしまった事も失点につながる大きな原因です。

これはオーストラリア戦でも見られた現象ですが、結果的にシュートや失点に繋がらなかっただけで全く別の内容と結果となった2試合に於いて代表チームに同じ現象が起こっていたことは事実です。

もちろん最後のシーンでの改善ポイントはあったかもしれませんが、他に言及しなくてはいけないディテールは数多く存在していました。

センターバックやGKは本当に残酷なポジション、失点場面にはその場に必ず遭遇しなくてはならないポジションです。GKやCBのミスで失点する事もあるだろうし彼等のところにボールが来た時点で失点を防ぐことは難しくなってしまっている場合もあるでしょう。

我々の仕事は試合の流れを見極め、その試合に於ける両チームのサッカーを出来る限り理解する事が重要となります。そして分析したものをベースに『この段階から問題が起こっている』起こった現象に対し建設的に指摘をしていくべきではないでしょうか」

——南アフリカW杯で16強に入った際の中澤選手や闘莉王選手をはじめ、過去のセンターバックと比較されがち、なのかもしれません。

「中澤選手と闘莉王選手も素晴らしいセンターバックですし、彼らの日本サッカーに対する貢献を考えると僕自身心から彼らをリスペクトしています。

ただ代表におけるキャリアや貢献度とはまた別のところ、純粋に一人のプレイヤーとして見た時には吉田麻也というセンターバックは世界最高峰のプレミアリーグにて日々闘っており日常的にアグエロやルカク、またはケインといった世界的なストライカー達と毎週末対峙し続けています。

ですから吉田選手が今までの日本サッカーに於ける数々の偉大なセンターバック達とは別のステージにいるという事はヨーロッパに出ていく事が以前に比べて容易になったという側面を踏まえて考えてみても疑いようのない事実ですし、吉田麻也というセンターバックが日本サッカーを新たなステージへ押し上げて行ってくれるインターナショナルレベルのセンターバックであると僕は考えています」

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