コラム Column

躍進の筑波大、天皇杯8強ならず。大宮に肉薄も、僅かで大きな隙。

文:安藤隆人
Takahito Ando

天皇杯における筑波大の快進撃は、4回戦で幕を閉じた。

4回戦・筑波大vs.大宮アルディージャ。カシマスタジアムで行われたこの一戦は、平日の夜だったこともあり観衆こそ2429人と少なかったが、報道陣の数はテレビや紙媒体を含めてかなり多く、他の試合とは違う異様な雰囲気を漂わせていた。

内容的には前半は大宮、後半は筑波大のゲームだった。

筑波大からすれば後半は完全にボールを支配し、人もボールも動く“らしい”サッカーを展開し、大宮を振り回す場面もあった。

しかし、スコアは0−2。

大宮FW清水慎太郎による前半のPKと後半のオーバーヘッドシュートの2発に沈む形となった。

筑波大が試合をひっくり返せるだけの決定的なチャンスを作り、主導権を完全に掌握していただけに、惜しい敗戦だった。

単に「惜しい負け」にしないための分析が大事。

72分に筑波大のエースストライカーであるFW中野誠也が、インターセプトからドリブルで持ち込んで強烈なシュート。バーの下を激しく叩いたボールは、ワンバウンドの際にゴールラインを割った……かに見えたが、判定はノーゴール。もしこのゴールが決まっていたら、試合の結果は違ったものになったかもしれなかった。

こうした“惜しい”展開を踏まえての0−2。結果だけ見ると「勝てる試合だった」、もしくはその逆の「決めるべきところで決める決定力の差があった」などと、敗因分析はありきたりなものになってしまいかねない。だからこそ。この結果をありきたりな敗因に帰着させるのではなく、もう一歩踏み込んだ分析をする必要があるだろう。

筑波大と言えば、「パフォーマンス局」に代表されるように、試合を徹底的にデータ解析し、チームと個々のスキルアップに努めるインテリジェンス集団でもある。

試合後のミックスゾーンで選手の話を聞いてみると、筑波大のCB鈴木大誠の分析が、この試合結果の核心を突いているように思えた。

3本も決定的なシュートを打たせていることが敗因。

「前半、清水選手に自由に足を振らせてしまった。PKを獲られたシーンもハンドかハンドではないかは別として、清水選手が胸トラップしてからシュートを振り切るまでの間合いがあったことが問題。公式記録を見ると、清水選手だけに前半で6本もシュートを打たれている。そのうち1本がゴールにつながり、2本がバーとポストを直撃した。1トップに対して僕らは2人のセンターバックで対応していたのに、そこまで打たせて、なおかつ3本も決定的なシュートを打ちきらせてしまったことが、そもそもの敗因だったと思います」

前半、筑波大の連動したプレスは、大宮に対して明らかに効いていた。しかし1トップの清水がシュート体勢に入ったときの守備に限って言えば、鈴木大が言う通り明らかに弱かった。ディフェンス陣が、十分に寄せきれていなかったのだ。

J1クラスのストライカーがアタッキングサードに入れば、僅かな隙を突いて強烈なシュートを打ってくる。“足を振る”だけのわずかな時間でも与えてしまったら、シュートの精度は一気に上がり、ゴールに繋がる確率は高くなる。

もし早く寄せていたら、正対してブロックしたら……。

大宮がPKを獲得したシーンも、右サイドからのMF岩上祐三の高く上がったクロスを、筑波大CB山川哲史が清水に簡単に胸トラップをさせてしまったことが最初のミスだ。

さらにトラップでこぼしたボールに、清水がダッシュして追いつき右足ハーフボレーを放った時に寄せきれず、山川が清水に背中を向け、ボールが見えない状態のままシュートブロックに入ってしまった。これが2つ目のミスだった。

一連のプレーで後手を取り、清水に足を振り切る時間を与えてしまった。もしこのシーンで寄せるスピードがもっと早く、清水に正対する形でシュートブロックに入っていたら、清水は足を振り切れなかったかもしれないし、ボールは手に当たらなかったかもしれない。

もちろん山川は今年に入って急成長を遂げた選手であり、能力のある選手であることは間違いない。だが……こうした一見些細にも思えるプレーが、試合を大きく動かしてしまったのも事実だった。

得点シーン以外にも、失点のピンチは数度あった。

さらに34分には右からのグラウンダークロスに対し、フリーとなった清水が右足ダイレクトで合わせる。強烈なシュートはバーを直撃した。このシーンも清水と正対していたMF戸嶋祥郎が寄せきれず、清水に自由を与えてしまっている。

さらに40分、清水のミドルシュートが左ポストに当たったシーンでは、寄せてきた筑波大の守備陣のプレスを完璧にフェイントでかわして余裕を持って打っており、GK阿部航斗がわずかに触っていなかったら得点シーンとなっていたはずだ。

「オーバーヘッドシュートのときも、十分に時間を与えてしまっていた」(鈴木大)

80分、交代出場のMFマテウスに左サイドを突破され、マイナスに折り返されると、ゴール前では清水を完全フリーにしてしまった。折り返しがブロックに入った山川の膝に当たって、こぼれた時に誰も寄せに行かなかった。結局、ボールの軌道を良く見ていた清水がオーバーヘッドシュートを決めている。

このシーン、簡単に左サイドを破られたことに加え、清水の後方にいたDF野口航がより強度を持って寄せていれば、楽にオーバーヘッドを打たれることはなかったはずだ。

相手CBは筑波大のFWに足を振る時間を与えなかった。

「サッカーにおいて、攻守両面で一番相手にやらせてはいけない場所はゴール前。もちろん清水選手が自分の間合いとシュートを打つための時間を作り出せる優れた選手だったこともありますが、そこに対して僕らがしっかりと寄せきれなかったことが大きな問題でしょう」

こうはっきりと言い切った鈴木大に、「じゃあCBの目から、味方のFW陣は『シュートを打つ時間』を与えられていたと思う?」という質問をぶつけてみた。すると「正直、ほとんどなかったと思います」と即答し、さらにこう続けた。

「FW中野(誠也)さんがゴール前でボールを受けたときは、バーに当たるようなシーンが1試合に3回くらいあるけど、今日は体勢を崩されてギリギリでバーに直撃した1本しかなかった。それは相手のCBの上手さの証拠だと思う。バイタルエリアは凄く空いていて、ウチのトップ下の選手なども自由に前を向いてプレーできていたはずなのですが……でも、足を振る時間は与えてもらえなかった、ということです」

その言葉通り、筑波大はゴール前の展開でしっかりと足を振り切って枠内シュートを打てたのは、冒頭で触れた72分の中野のシュートだけだった。

「『失点に不思議の失点なし』ですね」

その中野のシュートを振り返ってみると……相手のパスミスを中央で受けた中野は、ツータッチ目ですでにシュートを打てるタイミングにあった。しかし、「山越選手が正対して(シュートブロックに)飛び込んで来るのが見えたので、そこで打たずに1個外してからシュートを打った」と語ったように、もうワンタッチして右に逃げてから右足を強振している。

一度シュートタイミングをずらして、コースと足を振り切る時間を作り出したからこそ、強烈なシュートが枠に飛んだのだ。

この中野のシュートは前述した通り"疑惑のノーゴール"になってしまったが、40分の清水のシュートと同様に、GK塩田仁史の指先に触れていなければ、一直線にゴールに刺さるファインゴールだった。

「(2回戦の)仙台戦は相手のDFの寄せの速さやシュートブロックのタイミングの早さに戸惑って、シュートを打ち切れなかったり、引っかかったりしていたのですが、この試合(大宮戦)は冷静に相手の動きを見て、シュートを打つ前に1個外すプレーができるようになったのですが……」(中野)

敵FWに技術レベルの高い選手が1人いれば、一瞬の隙が命取りとなるのだ。

最後に鈴木大はこの言葉で締めた。

「よく『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』と言いますが、『失点に不思議の失点なし』ですよね。相手に足を振る時間を与えない守備は自分がもっと突き詰めていくべき所だと思うので、これからより整理して自分の中に吸収して、チームにもその意識を共有していきたいと思います」

天皇杯という歴史ある大会で、さわやかな風を吹かせた筑波大。

より貴重な自らの最新データを手にしたインテリジェンス集団は、この悔しさをどう個人とチームに反映させていくのか……彼らの進化を引き続き追いかけていきたい。

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