コラム Column

松山英樹と王者トーマスの共通点。評価、賛辞よりも大切なものとは。

文:舩越園子
Sonoko Funakoshi

米ツアーのプレーオフ・シリーズ最終戦、ツアー選手権最終日の夕暮れどき。イーストレイクの18番グリーンで行われた表彰式には、2人のウイナーが立っていた。

1人は、今季ルーキーながらツアー選手権を制し、早くも通算2勝目を挙げたザンダー・シャウフェレ。もう1人は、シャウフェレに1打及ばず大会では2位になったものの、フェデックスカップの最終ランクで1位になり、年間王者の座と10ミリオン(1000万ドル=約11億2000万円)を勝ち取ったジャスティン・トーマスだった。

シャウフェレとトーマスはハイスクール時代から腕を競い合い、勝利を競い合ってきた同期だ。先にホールアウトしたトーマスは、シャウフェレが72ホール目でウイニングパットを沈めると、18番グリーン奥で歩み寄り、旧友を祝福した。

「突然、ジャスティンがサプライズで現れ、おめでとうと言って握手をしてくれて、すごくうれしかった」

そう言って喜んでいたシャウフェレは、大会で優勝しても年間王者の座と10ミリオンは手に入れることができなかった。ただ新人にしてプレーオフを勝ち進み、ツアー選手権まで到達して優勝を遂げたことは「自分自身の期待をはるかに上回る出来過ぎの結果」だと、笑顔を輝かせながら謙虚に語った。

年間王者になっても「ルーザーになった」。

対照的に、トーマスは怒っていた。そして、がっかりしていた。シャウフェレを祝福したトーマスの姿はグッドルーザーだったが、年間総合優勝を果たしたのだからトーマスは年間王者、つまりはビッグウイナーなのだ。

しかしトーマスにとって、それは「ウイナーになった。勝った」という感覚からはほど遠く、彼はただただ「ルーザーになった。負けた」と感じ、悔しがっていた。

トーマスは今季、すでに5勝を挙げていた。とりわけ、全米プロを制し、メジャー初優勝を挙げたこと、そしてプレーオフ第2戦のデル・テクノロジーズ選手権を制したことが、ツアー選手権で優勝できずとも彼を年間王者へ押し上げる大きな要因になった。

だがトーマスにしてみれば、それはいわば「どうでもいい話」だった。

年間王者の条件をメディアに説明されると……。

ツアー選手権2日目に首位に立ったトーマスは、3日目にやや乱れ、首位と5打差の4位へ後退した。そのとき、米メディアの1人が「明日、もしも勝てなかったとしても、キミが2位でジョーダン・スピースが3位以下で……」と説明を始めようとしたら、トーマスはそれを遮り、こう言ったのだ。

「そういう話は僕に言わないでくれ。聞かせないでくれ」

優勝することしか考えていない。優勝できずに年間王者になることなど考えたくない。そのための条件なんて聞きたくないし、興味もないとトーマスは言った。彼が目指していたのは、あくまでもツアー選手権で勝つこと。ポイントレースで勝つことは、彼にとっては「勝つ」ではなく「副産物にすぎない」ことだった。

「だから、72ホール目のバーディーパットを沈めたかった。ツアー選手権で勝ちたかった。今季6勝目を絶対に挙げたかった」

彼の胸の中には、その悔しさばかりが充満していた。

ツアー選手権後、松山もがっかりしていた。

今季の松山英樹は、そんなトーマスと同組になったり、優勝争いをしたりと絡む機会が多かった。とりわけ8月の全米プロ最終日の2人の優勝争いは記憶に新しい。

そして、ツアー選手権を終えたとき、トーマスが怒っていたのと同様、松山英樹も怒っていた。いや、トーマス同様、松山も「がっかりしていた」という表現のほうが適切であろう。

何に落胆していたか? 言うまでもなく、プレーオフ・シリーズをランク1位で迎えながら、4試合すべてで振るわず、最終ランク8位という不本意な締め括りになったことに彼はがっかりしていた。

そんな気分だったから、今季1年を振り返る語調もすっかりトーンダウンした。

今年、嬉しかったことは?

「忘れました」

今年は去年と比べて、向上したと思う?

「思わないです」

後退ではないですよね?

「微妙ですね」

今季残した成績は素晴らしい向上だと思うけど。

今季の松山は、序盤にHSBCチャンピオンズで優勝し、日本人初の世界選手権制覇を果たした。2月にはフェニックス・オープンで大会2連覇を達成。全米オープンでは2位になり、8月にはブリヂストン招待で快勝。その翌週、全米プロでメジャー初優勝に迫り、惜敗して悔し涙を流した。

メジャー優勝には惜しくも届かなかったが、世界選手権2勝を含む年間3勝、通算5勝を達成し、世界ランキングではあと一歩でナンバー1というところまで行った。

「それは、素晴らしい向上だったと思うし、周囲もそう評価しているけど」

そんなふうに投げかけても、松山は「(周囲が)そうだったら、そうなんじゃないですか」と、苛立ちを露わにする。それは、自身の満足からはほど遠いことへの悔しさの裏返し。

松山の反応は、年間王者に輝いて10ミリオンのボーナスを手に入れても、72ホール目のバーディーパットがわずかにカップをそれ、目指していたツアー選手権優勝にわずかに手が届かず、「勝てなかった」「勝ちたかった」と怒っていたトーマスの反応と通じるものがあった。

自分自身の夢と目標の達成こそが満足への道。

評価より、賛辞より、自分自身の夢と目標の達成こそが満足への道。そこは、トーマスも、松山も、トッププレーヤーなら誰にも共通する“こだわり”であろう。

トーマスは今季序盤にマレーシアでCIMBクラシックを制したときから「ツアー選手権で優勝し、フェデックスカップも取る」を今年のゴールに掲げていた。

「4つのメジャーに照準を合わせるのと同じように、僕はプレーオフ・シリーズで調子がピークになるよう調整してきた」と言い切っていた。

それほど目指し、それほど備え、それでも勝利を逃したことは、トーマス自身にとっては、もはや今季の好成績も世間の評価も何もかもが吹っ飛ぶほど悔しい出来事だったということなのだろう。

そして、松山に見られた反応も、トーマスのそれとよく似ていた。世間が素晴らしいと言うのなら、そうなんだろう。だが全米プロで惜敗後、プレーオフでは毎週毎日「いい感じでいけそうと思ってスタートしたけど」、蓋を開けてみればショットは曲がった。パットも「毎日、自信を持ってスタートしても、3ホールぐらいで自信をなくす」ことの繰り返し。

その結果、優勝争いからも年間王者争いからも蚊帳の外。世間がどう評価しようとも自分自身では素晴らしいだなんて到底思えないというのが、松山の心情だったように思う。

「毎日、65ぐらいで回れたら」という気持ちで。

だがそうなってくると、果たして何がどうなったら松山は自身の向上を認め、「よし!」と満足できるのか。その基準が知りたくなって単刀直入に尋ねた。

「毎日、65ぐらいで回れたら、(そう)思うんじゃないですかね」

冗談のようで、やけっぱちのようで、結構、本気の返答だったのだと思う。

そう言えば、トーマスが今季始めに掲げた「目標リスト」の中には「メジャーで勝つ」「ツアー選手権で勝つ」以外に「平均スコアを70以下にする」というのがあった。

なんだかんだ言っても、詰まるところ、彼らは根っからのゴルファーなのだ。上がってナンボ。1打でも少なく、誰よりも少なく。それができれば最終的には、すべての向上と満足にたどり着く。

突きつめれば、話はシンプルだ——。

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