コラム Column

宮里藍は松井秀喜を見ていた——。日本を背負い戦った女性の肖像。

文:南しずか
Shizuka Minami

エビアン選手権最終日の14番ティーグラウンド、宮里藍は前の組のプレーを待つ間に、同組のイ・ミヒャン(韓国)と言葉を交わしていた。

宮里は、会話の合間にクルッと振り向いて、1歩下がったところにいたもう1人の同組のチェ・へジン(韓国)に声をかけた。

「(韓国から)家族は来てるの?」

英語が苦手なのか、シャイな性格なのか、18歳のプロになったばかりのヘジンは小さな声で「ノー」と答える。宮里が「1人で来てるの? すごいね」など続けて言葉をかける。

ヘジンは、はにかんだような笑顔で頷く。

言葉数は少なくとも、ヘジンは宮里に話しかけられて嬉しそうだった。

何気ない会話だが、宮里藍らしい瞬間であった。

いつも誰でも別け隔てなく明朗に接してくれた。

ゴルフは個人スポーツなので、他の選手と会話しなくても試合に支障はない。むしろ、寡黙に自分のプレーに集中している選手の方が多い。だが、宮里は、年齢が一回り以上違うアジアの後輩に躊躇することなく話しかけた。一緒にラウンドするのは初めてだったにもかかわらず。

いつでも宮里は、自ら挨拶をし、はっきりした声で喋り、相手の話に耳を傾けた。

メディアにも同様に真摯に対応した。

顔見知りも、初めてゴルフ取材に来たメディアも区別することなく、きちっと挨拶を交わした。

「今日の調子は?」

「今週の目標は?」

「コースの印象は?」

毎週、毎日、すべての大会で繰り返される平凡な質問にも、嫌な顔ひとつせず、ハキハキした声で丁寧に答え続けてくれた。

「松井秀喜さんは、毎日取材に応じていたんですよね?」

2、3年前にちょっとした会話の流れで、一度だけ宮里から聞かれたことがある。

「松井秀喜さんは、毎日、取材に応じていたんですよね?」

筆者は松井氏の担当になる機会はなかったが、そういうことをメディア仲間から聞いたことがあったので「そうらしいですよ」と答えた。「なるほど」という感じで、宮里はただ頷いた。

その時は咄嗟に質問の意図を確認しなかったが……おそらくメディアを通してファンとつながる重要性を再確認していたのではないだろうか。

日本女子ゴルフ界を背負って、戦い続けてきた宮里。

2017年9月17日。

曇り空が広がるエビアン選手権の18番グリーン、宮里は現役最後のパットを決めた。

こみ上げてくる思いに耐えきれず、右手の甲で涙を拭う。

グリーンを取り囲む観客の拍手がやまない中、ゴルフ界の英雄のゲーリー・プレーヤーから花束を渡された。宮里の最後の勇姿を見届けた戦友のポーラ・クリーマー、ヤニ・ツェンも出迎えてくれて、ハグを交わした。

スコア提出を終えた宮里は、試合中に宮里のプレーをずっと観戦エリアから見守っていた中学生ぐらいの女の子を「おいで」と手招きで呼んで「ありがとう」とハグした。

最後の最後まで、気配りの人、宮里らしい立ち振る舞いだった。

サービス精神に負けず劣らず、成績も超一流だった。

日本人として初の世界ランク1位になり、日米通算24勝をあげた。宮里はスター選手という運命を受け入れ、日本の女子ゴルフ界をひっぱり、国を背負って戦い続けた。

「藍ちゃんスマイル」は永遠に。

「達成感より解放感の方が大きいですね。ツアーで戦ってきた自分自身に対する期待感やプレッシャーを手放せるので」

試合後の記者会見では、涙目ながらも晴々とした表情だった。

プロゴルファー宮里藍は、14年間のプロ生活に終止符を打った。

だが、ファンを、選手仲間を、メディアを魅了し続けた輝くような「藍ちゃんスマイル」は、みんなの記憶に残り続けるだろう。

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