コラム Column

谷亮子、白井健三、伊藤有希……。「体育が苦手」なのになぜ活躍?

文:松原孝臣
Takaomi Matsubara

先日、さる小さな会合のあと、こんな感想を耳にした。

「うちの子は、体育が苦手なので、スポーツをやっても伸びるのは難しいのでしょうね。何か競技に打ち込んでほしいんですけど」

残念そうにつぶやくお母さんに、同意するようにうなずく人たちがいた。

でも、必ずしもそうではない。

意外なことに、「スポーツは苦手です」というアスリートは少なくない。

先月、ノルディックスキー・ジャンプの伊藤有希に話を聞く機会があった。小学6年生のとき史上最年少で国際大会の表彰台に上がり、脚光を浴びた。その後も日本代表で活躍し、現在は世界のトップを争う位置にいる。

伊藤は学生時代を振り返りつつ言った。

「私はふつうの女の子よりも体を動かすのが苦手なので、できるまで人の何倍もかかります」

体育を得意としていなくても活躍する選手たち。

中学生の頃、日本代表合宿を見学する機会があった。合宿では陸上トレーニングやバドミントンなどさまざまなメニューが行なわれたが、正直、参加している選手たちの中でそれらの出来がいいとは言えなかった。

だがジャンプでは、小学校の高学年から同世代で抜きん出た、いや年長の選手顔負けの距離を飛んできたのである。

話は伊藤に限らない。柔道の五輪金メダリストである谷亮子は現役時代、「体育ではどの種目もできなくて、成績も悪かったです」と語っていた。また、バレーボールの元日本代表、大山加奈を指導した下北沢成徳高校の小川良樹監督は、大山について「運動神経や反射神経がいいわけではなかったですね。むしろよくなかった」と振り返っている。

あるいは体操の白井健三も、体育を得意としてたわけではない選手だ。彼らに限らず、運動、スポーツは不得意だと言いつつ、華々しく活躍している選手は少なからずいる。可能なのはなぜなのか。

「伸びるには、適性というものが大きいのでは」

その手がかりとなる言葉がある。JOCエリートアカデミーのディレクターを務めてきた平野一成氏は以前、こう語っていた。

「伸びるには、適性というものが大きいように思います」

万能ではなくても、ある特定の競技に適しているかどうかがポイントだという意味だ。適性に着目した育成は、近年、盛んになってきた。よく知られるところでは、福岡県が実施するタレント発掘事業がある。セレクトプログラムで選出された小学生から中学3年生を対象に、能力開発・育成プログラムを実施するもので、ある競技に打ち込んでいた子供に、測定で得たデータ、あるいはさまざまな競技を体験する中で他の競技を勧め、実際に転向した子供もいる。

その中から活躍する選手も現れている。

末本佳那はもともとバスケットボールに打ち込んでいたが、勧められたライフル射撃に転向。国際大会に出場するまでになった。

また、フェンシングの日本代表として国際大会にも出ている向江彩伽と高嶋理紗も、同事業でフェンシングへの適性を見出された2人だ。適性というものを物語る一材料であるように思える。

福岡県の事業の場合、一定以上の運動能力の有無は判断材料とされているように見受けられるが、先にあげた伊藤らは、よりはっきりと適性の重要性を示している。

競技において必要な身体能力が高いか否か。

一方で伊藤は中学生の頃、頭角を現すことができた理由を、このように評されることも珍しくなかった。

「やっぱり身体能力が高いですよね」

谷もまた、運動神経や反射神経が際立っていることが強さにつながっていると中学生の頃から言われていた。

もともとの運動能力はともかくとして、ジャンプ、あるいは柔道に必要とされるスキルでは、そのように周囲が受け止められるほどの動きを見せたのだ。

走るのが速くて、球技もいとも簡単にこなしてしまう子供はいる。見るからに運動神経も反射神経もいい子がいる。しかし、アスリートとしてのちのち活躍できるかどうかは、その要素だけでは決まらない。

自分に適した競技に出会えるかどうか、見出せるか。そうした競技との出会いが、自ら「やってみたい」という思いからであれば、さらに伸びる条件は整う。

そこには運も伴うかもしれない。

でも、体育ができなくてもあきらめる必要はないことは、数多くの選手が証明している。

ナンバーオリジナル商品展開中

スポーツは読むと面白い!